車道の左端を自転車で走っているとき、前の自転車が遅いと、「少し右にふくらんで抜いていいのか」と迷う場面があります。
特に2026年4月1日から、16歳以上の自転車利用者にも青切符の制度が始まったことで、「もし違反だったらどうしよう」と不安に感じる人は増えたはずです。
ただ、自転車のルールは「左側を走る」「歩道の走行は例外」などの原則がある一方で、現実には前の自転車を追い抜いたり、停車中の車を避けたりしなければならないこともあります。
そのため、追い越しという行為そのものが問題なのか、それとも追い越し方しだいで違反になるのかが、とても分かりにくくなりがちです。
警察庁も、自転車は軽車両として交通ルールの対象になる一方、青切符導入後も取締りは一律ではなく、基本は指導警告、悪質・危険な違反が対象という考え方を示しています。
この記事では、追い越し自体は青切符の対象になるのか、少し右にふくらむのは問題ないのか、どこから違反になりうるのかを順番に整理していきます。
なお、今回はあくまでも「車が自転車を追い越す場面ではなく、自転車同士の追い越し」を前提としています。
前の自転車を抜いただけで青切符になるわけではない
結論から言えば、前の自転車が遅いからといって、それを抜いただけで直ちに青切符になるわけではありません。
ここは、最初に安心してよいポイントです。
警察庁は、自転車への青切符制度が始まったあとも、違反があれば何でもすぐに青切符にするのではなく、基本は指導警告で運用し、交通事故につながるような悪質・危険な違反を検挙の対象にすると案内しています。
つまり、我々がまず気にするべきなのは「追い越した事実」そのものではなく、どのように追い越したかです。
追い越し自体は、すぐ違反になる行為ではない
警視庁は、車両通行帯のない道路を走る自転車について、次のように案内しています。
「追越し等の場合を除いて、道路の左側端に寄って通行しなければなりません」
この表現から分かるのは、左側端通行が原則であっても、追い越しは最初から例外として予定されているということです。
自転車は軽車両なので、普段は道路の左側を走るのが基本ですが、前の自転車を抜く場面まで一律に禁止しているわけではありません。
したがって、「前の自転車を抜いた=即違反」ではないと考えて大丈夫です。
ここで大事なのは、「追い越しそのもの」と「危ない追い越し方」を分けて考えることです。
前者は日常的に起こりうる行為ですが、後者になると話が変わります。
少し右にふくらむこと自体も、直ちに違反とはいえない
前の自転車を抜くには、どうしても一時的に少し右へ寄る形になります。その際、自転車用のナビラインなどからはみ出て、車側にズレるのは一見すると危険な動きにも感じます。
しかし、この動きも、それだけで直ちに青切符の対象になるわけではありません。
先ほどのとおり、警視庁は「追越し等の場合を除いて」左側端通行としているので、逆にいえば、追い越しのために必要な範囲で進路を変えることまでは、最初から想定されています。
また、車道左側にある自転車ナビマーク・自転車ナビラインについても、警視庁は「自転車の通行動線(通行すべき部分・方向)を知らせる法定外表示」と説明しています。
さらに、次のようにも案内しています。
「『自転車優先』等法令上自転車を保護する意味はありません」
つまり、あの表示は通行の目安ではありますが、少し右へずれたら自動的に違反になる種類の線ではないのです。
実際、警視庁は自転車ナビマーク・自転車ナビラインの説明の中で、駐停車車両を避ける際には後方から来る自動車がないか安全確認をすること、車道に出る際や歩道に上がる際は他の自動車や歩行者に十分注意することを呼びかけています。
これは、現実の道路では自転車が少し進路を変える場面があることを前提に、そのときの安全確認が大切だと示しているものです。
そのため、我々がつい不安に感じやすい「少しはみ出すのは大丈夫か」という点は、少し右へ寄った事実そのものより、そのときの通行方法が安全だったかどうかで判断されることになります。

ここまでをいったん整理すると、「前の自転車を抜くこと自体」も、そのために「一時的に少し右へ寄ること自体」も、直ちに青切符には結びつきません。
では次は、この前提を押さえたうえで、どんな追い越し方をすると危険・違反と判断されやすいのかを確認していきましょう。
青切符の対象になりやすいのは、危ない追い越し方をした場合
ここまで見てきたとおり、前の自転車を抜くこと自体は、直ちに青切符と結びつく話ではありません。
では、どこから注意が必要なのでしょうか。
ポイントは、「追い越しという行為そのもの」ではなく、「そのときの進路変更や通り方が危険だったかどうか」です。警察庁も、青切符制度は一律に適用するのではなく、悪質・危険な違反態様を取締りの対象とする考え方を示しています。
急な進路変更や無理な追い抜きは違反になりうる
自転車で前の自転車を抜くときは、少し右へ進路を変えることになります。
このときに問題になりやすいのは、急に進路を変えることや、十分な余裕がないまま無理に抜くことです。
警察庁の「交通の方法に関する教則」では、進路変更について次のように説明しています。
「みだりに進路を変更してはいけません。また、進路を変更すると、後から来る車が急ブレーキや急ハンドルで避けなければならないような場合には、進路を変えてはいけません。やむを得ず進路を変更するときは、バックミラーや目視で安全を確認してから変更しましよう。」
出典:警察庁「交通の方法に関する教則」(PDF)
この説明を、自転車が前の自転車を抜く場面に当てはめると、次のような行動は危険と判断されやすいです。
- 後方確認をしないまま急に右へ出る
- 相手との間隔が足りないまま追い抜く
- 接触しそうな近さで無理に抜く
- 後ろから来る車に急な回避を強いる形で進路を変える
また、同じ教則では、追越しの方法について「ほかの車を追い越すときは、その右側を通行しなければなりません」、「追越し中は、追い越す車との間に、安全な間隔を保つようにしなければなりません」とされています。自転車も軽車両なので、こうした基本的な考え方の対象です。
手信号なしで進路変更した場合も注意が必要
前の自転車を抜くときは、右へ出る場面だけでなく、抜いたあとに左へ戻る場面もあります。
どちらも、法律上は進路変更として扱うのが基本です。
道路交通法施行令では、同一方向に進みながら進路を右または左に変えるときの合図時期について、「その行為をしようとする時の三秒前」と定めています。
つまり、手信号は「やった方がよい」という程度ではなく、本来は必要なものです。
さらに、警察庁の反則行為一覧にも、「合図不履行 §53①・②」が自転車の反則行為として挙げられています。
そのため、右へ出るときや左へ戻るときに合図をしないまま進路変更すれば、法的には注意が必要です。
なお、具体的な進路変更の手信号については、神奈川県警の「自転車に乗るときのルールとマナー(11 手の合図)」にイラスト付きの説明があります。
停止、右に進路変更、左に進路変更の3種類が図で紹介されているため、手の出し方を確認したい方はこちらのページをどうぞ。
もっとも、この記事の主題はあくまで「追い越しが青切符の対象になるのか」という点です。
その意味では、ここで覚えておきたいのは、手信号なしの進路変更も“危ない追い越し方”の一部として見られうるということです。
ですので、皆さんにおいてはもし余裕があるなら、「追い越しの際は手信号を出しながら」を心がけておくのがいいかと思います。
(……とはいえ、さすがに「手信号を怠ったから即青切符を切られた」といった情報はまだ見たことないので、そこまでビクビクする必要はないと思いますが)
歩道に入って抜くのはあり?ここは別ルールで考える
前の自転車を抜く場面では、車道の中で少し右へ寄って抜く場合と、いったん歩道に入る場合とで、考え方が変わります。
車道で右へ寄る話は、あくまで車道上での追い越しです。
一方、歩道に入った時点で、見るべきなのは「追い越しかどうか」より、その歩道通行が認められる条件に当てはまるかです。警視庁も、自転車は原則として車道通行で、歩道は例外という立て付けで整理しています。
やむを得ない事情があれば、直ちに問題とはいえない
歩道に入ることが許される余地はあります。
その代表が、車道をそのまま走る方が危ない場面です。
警察庁は、普通自転車が歩道を通行できる場合のひとつとして、次のように示しています。
「車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき」
出典:警察庁交通局「自転車を安全・安心に利用するために―自転車への交通反則通告制度(青切符)の導入―【自転車ルールブック】(PDF)
この考え方に当てはまりやすいのは、たとえば駐停車車両が続いていて左側がふさがれている場合や、道が狭く、右へふくらんで避けるとかえって危険な場合です。
警視庁も、歩道通行が認められる例として、駐車車両による渋滞で車道を避けて歩道を走る自転車を示しています。
つまり、歩道に入ったこと自体で直ちにアウトになるわけではありません。
「車道に残ると危ないから、やむを得ず歩道へ入った」と説明できる場面なら、直ちに問題とはいえない、ということです。
ただし、ここで終わりではありません。
歩道を通れる場合でも、自転車は車道寄りを徐行し、歩行者優先で通行する必要があります。歩道はあくまで歩行者用の道路なので、そこは注意しましょう。
ただし、理由なく歩道に入れば違反になりうる
逆に、車道でふつうに避けられるのに、止まりたくないから歩道へ入るという場合は話が変わります。
この場合は、「やむを得ない事情がある」とは言いにくく、歩道通行の例外に当たりにくくなります。
自転車はもともと車道通行が原則なので、理由なく歩道へ逃げる形なら、違反と判断される余地があります。
もっとも、ここで大事なのは、違反になる可能性があることと、その場で直ちに青切符になることは別だという点です。
警視庁の案内では、青切符導入後も、単に歩道を通行しているといった違反については、通常「指導警告」が行われると説明されています。
一方で、歩道の走り方が危険なら、扱いは重くなります。
警視庁は、次のような場合には取締りを受けることがあると示しています。
「例えば、スピードを出して歩道を通行して歩行者を驚かせ立ち止まらせた場合や、警察官の警告に従わずに歩道通行を継続した場合には、取締りを受ける場合があります。」
出典:警察庁交通局「自転車を安全・安心に利用するために―自転車への交通反則通告制度(青切符)の導入―【自転車ルールブック】(PDF)
上記の内容から、歩道に入ったことだけで機械的に青切符が切られるわけではないが、もし歩行者を驚かせるような走り方をした場合は、青切符を切られる可能性はある、ということになります。

つまり、このパートをひとことでまとめるなら・・・
車道で避けるのが危ないなら、歩道に入る余地はある。
ただし理由なく歩道へ入り、危険な走り方をすれば別問題。
まとめ
自転車で前の自転車を抜くこと自体は、基本的に青切符の対象ではありません。
前が遅いから少し右へ寄って先に出る、というだけで直ちに違反になるわけではなく、実際に見られるのは「そのときの通り方」です。
注意したいのは、後方確認をしないまま急に右へ出る、間隔が足りないまま無理に抜く、合図をせずに進路変更する、理由なく歩道へ入る――といった場面です。
歩道についても同じです。
車道で避けるのが危険なら歩道通行が認められる余地はありますが、そうした事情がないのに入り、さらに歩行者を驚かせるような走り方をすれば、取締りに近づきます。
歩道に入った時点で、車道上の追い越しとは別ルールで判断される、と押さえておくと整理しやすいです。
ちなみに、警察庁の反則金一覧では、自転車の追越し違反は6,000円とされています。
ただし、この記事で見てきたとおり、前の自転車を抜いたというだけで直ちにこの違反になるわけではありません。
最後に、この記事の結論をひとことで言うと、こうなります。
見られるのは「追い越したかどうか」ではなく、「どう追い越したか」です。
前の自転車を抜くだけで必要以上に不安になる必要はありません。
その一方で、急な進路変更や無理な追い抜きにならないよう、周囲をよく確認しながら落ち着いて通行することが大切です。
-120x74.png)
コメント