公務員は傷病手当金をもらっていても退職した方がいい?

アイキャッチ画像(記事33) 仕事・公的制度

傷病手当金について調べていると、「一定の条件を満たせば、退職後も受け取れる」という説明を目にすることがあります。
すると、「普通に考えれば、休職を続けながら受け取る方がよさそうなのに、わざわざ退職してまで受け取る人がいるのだろうか」「もしかして、退職した方が有利になるケースもあるのだろうか」と気になる人もいるはずです。

とくに、公務員としてすでに休職中で、傷病手当金を受けながら療養している人ほど、「では自分の場合はどうなんだろう?自分も早期に辞めるべき?」と立ち止まって考えやすいテーマです。

ただ、結論からいえば、こうしたケースでは基本的に、あえて退職するメリットは大きくありません。

この記事では、その根拠を解説していきます。

この記事でわかること
  • 公務員が傷病手当金受給中にあえて退職するメリットが小さい理由
  • そもそも休職制度というものがあるのに、なぜ退職後継続のルールまであるのか

退職しても傷病手当金が有利になるわけではない

まず大前提として確認しておきたいのは、「退職後も受け取れる」ことと、「退職した方が得」ということは同じではない、という点です。

地方職員共済組合は、資格喪失後の給付について、次のように案内しています。

「1年以上組合員だった方が、退職したときに傷病手当金を受給しているとき(傷病手当金の支給要件は満たしているが、報酬の方が高いため傷病手当金が支給されていない場合を含みます)は、退職後も病気やケガで働けない状態が継続する場合に限り、引き続き残りの支給期間について傷病手当金が支給されます。なお、傷病手当金附加金は、資格喪失後は支給されません。」
地方職員共済組合「勤務を休み報酬が支給されないとき」

ここで大事なのは、文中で赤字にした「残りの支給期間について」という部分です。

たとえ退職したとしても、新しく受給期間が増えるわけたり、受給期間がリセットされたりするわけではありません。あくまで、もともと残っていた期間を、そのまま引き続き受け取れるという仕組みです。

また、退職後の継続給付は無条件ではありません。
上の案内にもある通り、「病気やケガで働けない状態が継続する場合に限り」支給されます。退職したあとも、引き続き就労不能であることが前提です。

そのため、「引き続き医師の診断書の提出」が必要だったり、もちろん「手当を受け取りながら再就職」といったこともできないのです。

さらに、傷病手当金附加金の扱いも見ておきたいところです。
地方職員共済組合は、在職中の給付について次のようにも説明しています。

「組合員が公務によらない病気やケガで勤務を休み、報酬が減額されたり、支給されなくなったりしたときに傷病手当金が支給されます。また、傷病手当金の受給終了後、同じ病気やケガで勤務することができない場合は、傷病手当金附加金が支給されます。」
地方職員共済組合「勤務を休み報酬が支給されないとき」

在職したまま休職を続けている場合は、傷病手当金のあとに傷病手当金附加金が続く余地があります。
一方で、先ほどの案内の最後の一文にある通り、退職後は傷病手当金附加金は支給されません。

ここまでを整理すると、以下の通りになります。

  • 退職後も、傷病手当金そのものは残り期間を継続して受け取れる
  • ただし、退職したことで支給額や期間が有利になるわけではない
  • 傷病手当金附加金は、資格喪失後は支給されない

休職を続けても退職手当が不利になるわけではない

休職が長くなると、まず気になるのが退職手当の扱いです。
そして通常は休職期間が長引けば長引くほど、復職後の号俸調整などによって、俸給面で不利になることはあります。

すると、多くの人はこういう考えが過ぎると思います。

休職が長引く

俸給が下がるかもしれない

なら、退職手当も下がるのでは?

この考え方は自然です。

ただ、退職手当は俸給だけで決まるものではありません。
人事院は、退職手当の勤続期間について、次のように案内しています。

「勤続期間は、職員としての引き続いた在職期間により、月単位で計算されます」
「私傷病による休職…の期間」は「期間の2分の1を除算するものの例」
人事院「退職手当の支給」

つまり、私傷病による休職期間は、退職手当の計算で全部ゼロになるわけではありません

たとえば、1年休職した場合、退職手当の計算ではその1年が丸ごと消えるのではなく、きちんと6か月分は上乗せされる形になります。人事院の計算例でも、私傷病による休職7か月について、除算期間を「7月÷2=3.5月」としています。

なので、ここで言いたいのはシンプルです。

「休職が長引くと俸給が下がるかもしれない」
これはあり得ます。
でも、そこからすぐに
「だから退職手当も必ず下がる」
とまでは言えません。

退職手当は、そのときの俸給と在職期間ベースの計算の両方で決まるからです。

退職すると保険や手続きの負担が増えやすい

休職中であれば、基本的には共済組合の中にそのままいる状態です。
ところが、退職するとこの前提が変わります。傷病手当金の継続受給とは別に、これからどの保険に入るのかを自分で整理しなければなりません。

考えることは、たとえば次のようなものです。

  • 任意継続組合員になるか
  • 国民健康保険に入るか
  • 家族の扶養に入れるか

つまり、退職すると制度がすっきりするというより、保険の置き場所を決め直す作業が増えるわけです。

地方職員共済組合も、任意継続組合員について、次のように案内しています。

「退職の日の前日まで引き続き1年以上組合員だった方が、任意継続組合員になることを組合(支部)に申し出ることにより、退職後2年間、在職中とほぼ同様の短期給付を受けることができます。」
地方職員共済組合「退職後の医療(任意継続組合員制度)」

この案内からも分かるように、退職後は自動でそのまま移るのではなく、期限内の申出が必要です。
「退職すればあとは傷病手当金を受け取るだけ」とはならず、保険の手続きを別に考える必要があります。

しかも、任意継続には任意継続で別の注意点があります。
一つ目の理由で説明した通り、任意継続の場合では、「残りの傷病手当金は受け取れても、その後に続く傷病手当金附加金は受け取れません」。

つまり、退職後も傷病手当金そのものは条件付きで継続して受け取れても、在職中とまったく同じ状態が続くわけではありません。
保険の所属先は変わりますし、給付の扱いも一部変わります。

退職すると復職の可能性がなくなる

最後に、これは言わずもがなの話ですが……。

休職中は、体調が回復したときに職場へ戻る余地が残っています。
人事院も、病気休職中の職員については、復職を医師の診断結果に基づいて判断するとしています。

一方、退職すると、休職中であれば残っていた「回復したら復職する」という選択肢はなくなります。

もちろん、今の時点では復職を考えられない方もいると思います。
それでも、選べる状態のままでいることと、そこで道が閉じることは、やはり同じとは言い難いでしょう。
その意味でも、退職するかどうかは慎重に考えたいところです。

公務員には休職制度があるのに、そもそもなぜ退職後も傷病手当金を受け取れる仕組みになっているのか?

ここは、多くの人が一度ひっかかるところです。
公務員には休職制度があります。実際も、病気で働けないときは、まず休職しながら療養するのが基本です。

そうなると、こう感じやすくなります。

「そもそも休職できるのに、なぜ退職後も傷病手当金を受け取れるようにしているのか?」
「別に退職した時点で打ち切りというルールで問題ないのでは?」

この疑問はもっともです。
答えを先に言うと、傷病手当金のルールは、公務員だけを見て作られているわけではないからです。
ここには、民間も含めた大きな制度の考え方があります。

公務員だけではなく、被用者保険全体の考え方で作られている

まず前提として、公務員の共済短期給付は、公務員だけの特別な仕組みではありません。
財務省の資料でも、国家公務員共済組合制度は、健康保険の保険給付に相当するものとして整理されています。傷病手当金も、その中に入っています。

つまり、公務員の傷病手当金は、発想の出発点からして、民間の健康保険と切り離された制度ではありません。
「働けなくなった人の生活をどう支えるか」という、被用者保険全体の考え方の中に置かれています。

ここで大事なのが、民間では休職制度が法律で義務づけられていないことです。
大阪府の労働相談資料でも、休職については「法の定めはなく、各事業主に委ねられる」とされています。会社によっては休職制度がないこともありますし、あっても内容はばらばらです。

そのため、制度全体を考える側からすると、

  • 公務員のように休職制度がある人
  • 民間のように休職制度がない、または弱い人

この両方を見なければなりません。
そこで、退職した瞬間に傷病手当金まで打ち切る形にはしていないわけです。

公務員に休職制度があっても、退職後継続のルールは別に必要とされている

ここで次の疑問が出ます。
「民間の事情は分かった。でも、公務員だけは別にして、退職したら打ち切りでもよいのでは?」
この感覚も自然です。

ただ、厚生労働省の資料では、資格喪失後の継続給付をなくすと、療養のため退職を余儀なくされた人への給付を、資格喪失と同時に打ち切ることになると整理されています。そのうえで、退職後も一定の所得保障は必要という考え方が示されています。

ここで見ているのは、公務員に休職制度があるかどうかだけではありません。
退職したあとも、まだ働けない人をどう支えるかです。
つまり、制度の役割が違います。

  • 休職制度
    → 在職中に療養しながら回復を待つための仕組み
  • 退職後の継続給付
    → 退職したあと、すぐに生活保障まで切らないための仕組み

この2つは、どちらか一方があれば十分という関係ではありません。
役目が違うので、両方が並んでいます。

さらに、公務員であっても、休職制度があればそれで必ず足りるとは限りません。
人事院の通知でも、3年間の病気休職の期間が満了しても回復が不十分な場合や、今後、職務を遂行できる見込みがないと判断される場合を想定しています。

ここまでをまとめると、こうなります。

  • 公務員には休職制度がある
  • でも、傷病手当金のルールは公務員だけを見て作られているわけではない
  • 民間では休職制度が法律で決まっていない
  • そのため、被用者保険全体として、退職後の継続給付が必要と考えられている
  • 公務員もその枠組みの中に入っている

その結果、「公務員には休職制度がある」ことと、「退職後も一定条件で傷病手当金を受け取れる」ことが、同時に成り立っているわけです。

まとめ

公務員が傷病手当金を受けながら休職している場合、あえて退職するメリットは、基本的に大きくありません。

まず退職しても、傷病手当金が有利になるわけではありません。受け取れるのは、あくまで条件を満たしたうえでの残りの支給期間です。退職したことで金額が増えたり、期間が延びたりするわけではありません。

そのうえ、退職すると復職という選択肢はなくなります。今の時点では復職を考えていなくても、あとから状況が変わることはあります。そう考えると、選べる状態が残っていることには意味があります。

また、手続きの面でも、退職すれば話が簡単になるとは限りません。共済のまま休職を続けるのと違い、退職後は任意継続や国民健康保険、扶養など、保険の置き場所を考え直す必要があります。

つまり、「退職後も傷病手当金を受け取れる」というルールは、辞めた方が得になるように作られたものではないということです。 退職した時点で、生活保障まで一緒に切れてしまわないようにするための安全網です。

そのため、少なくとも制度面だけで見れば、「退職後も受け取れるらしいから、今のうちに辞めた方がよい」と考える必要はあまりありません。

明確な事情がない限りは、まず休職を続けながら療養する方向で考えて大丈夫です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました